猿の集団に囲まれて
長らく更新できなかった上に、紹介するのは、既に紹介した灯台で、少し気まずいのであるが、この季節になるとどうしても思い出してしまう灯台巡りがある。今回はおまけ話として、そのことをもう一度紹介したいと思う。
海岸線に立つ灯台と鮮やかな紅葉の景色を混ぜて撮影することは難しい。今回紹介する福井県の押回埼灯台を訪ねる山道の行程中にも、鮮やかな紅葉を目にすることはあったが、灯台の周辺は紅葉と言うよりも、散りゆく前の色づいた木々と言った感じだった。確かこの時は、その数日前に、滋賀県の金剛輪寺を訪ね紅葉狩りを楽しむことができたから、押回埼灯台に紅葉を期待して出かけたわけではなく、また途中の山道での紅葉が記憶に残っているわけでもない。まったく異なった思い出として押回埼灯台は記憶に残っているのである。ちなみに翌日撮影した金剛輪寺の紅葉を、灯台の写真が少ないので載せておくことにする。
さて、押回埼灯台は、限りなく京都府に近い福井県の西に立つ灯台である。自然歩道が整備されてはいるが、灯台までの道のりは徒歩で半時間ほどかかる。紅葉のシーズンの休日。もっと人がいるかとも思ったが、誰一人出会わなかった。言い換えればひとりぼっちだったわけである。自然歩道としてわかりやすい道が続いているのであるが、一歩踏み込めばまったくの岬の林である。灯台を目指して歩いている途中で、ふと右手奥にきれいに色づいた木々が目に飛び込んだ。多少の草の茂みはあるが、平坦そうに見えたため、私は迷わず道を外れて踏み込んだ。腰の高さほどの草をかき分けて踏みいると、数メートルで突然草がなくなり、そこは小さな広場になっていた。が、そこには数え切れない猿がいたのである。しかも全員一斉に私の方を見ている。
私は固まってしまった。野生の猿。それほど大きくはないが、これだけの数と私一人である。本能的に動いたらいけないと感じ、同時に逃げてもいけないと感じた。私は群れの中心にいる比較的大柄の猿と目線を合わした。なぜその猿だったのか理由は言えないが、とっさにそいつがボス猿だと感じたからである。次の瞬間数匹の猿が奥の草むらに飛び込むようにして消えた。そして次の瞬間また数匹が消えていった。
この間、私とボス猿とのにらみ合いは続いた。数分にも感じたが数十秒の間にボス猿以外はすべて草むらに飛び込んで消えていった。残されたボス猿と私。だが次の瞬間ボス猿も草むらに飛び込んでいった。私は猿たちとの眼付け勝負に勝ったのである(と思っている)。それにしても群れの猿がいなくなるまでボス猿ととにらみ合いを続けた記憶は強烈である。今でも彼の顔はしっかりと覚えている。
紅葉の季節が来ると、私は猿たちに囲まれた福井県の押回埼灯台を思い出すのである。
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